インターネットが最初の立ち上がり時期を過ぎ、第2フェーズに入ったことは、誰の目にも明らかだろう。明確な切れ目があるわけではないので、いつ頃から第2フェーズかという問いに答えるのは難しいが、昨年あたりがちょうどその分かれ目ではないかと思う。米国では、Web 2.0(広義)などと呼ばれることもある。
インターネットの第1フェーズについては、昨年1月のコラムで、「インターネット この10年」というタイトルで振り返ったので、興味のある方は、そちらをご覧いただければと思う。では、インターネット第2フェーズでは、何が起こっているのだろうか?
大きなこととして全体的に言えるのは、いよいよインターネット革命が本格化し、インターネット以前のビジネスのやり方が本格的に変わろうとしている、ということだ。すでに旅行代理店業界などでは、大きな変革がしばらく前から起こり、中小の旅行代理店でビジネスが立ち行かなくなってしまったところも多い。商品の購買にしても、通販からインターネット通販への移行は確実に進んでいる。
また、昨年11月には、このコラムで「放送とインターネットの融合で変革する放送業界、広告業界」を書いたが、まさしくこの分野は今、大きな音を立てて、これまでの業態が大きく変革しようとしている。この中では、既存の放送局、大手広告代理店も、うかうかとしていられない。放送局は、コンテンツを持っているという意味で、まだ戦う武器をもっているが、広告代理店は、インターネットによって淘汰される場合の多い「中間、仲介」的なビジネスであり、その強みであるテレビ放送枠等の媒体を押さえている点も、広告スポンサーの、テレビからインターネットへの移行により、その影響力が衰えることは否めない。YahooやGoogleの広告収入による成功は、その兆しを明らかに感じさせる。
これらのことが広がってくるには時間がかかったけれども、インターネット・ユーザー人口の広がり、インターネット関連技術の進歩、そして、インターネット・インフラストラクチャーの進化により、いよいよ実現してきた。例えば、3つ目のインターネット・インフラストラクチャーの進化によって、ダイアルアップの低速通信時代には、テキスト中心か、簡単な静止画程度しかやり取りできなかった(使用に耐えうるという意味で)ものが、ADSLやケーブルモデムの広がりにより高速化し、IP電話が実用的になり、ビデオ通信も、画面の一部に表示する程度のものは使用に耐えうるレベルになった。音楽やビデオイメージのダウンロードの時間も、十分耐えうる程度の時間になってきた。そして、FTTHが広がるとともに、いよいよフルサイズ画面でのビデオが、テレビ放送と同等レベルで見られるところまできた。これによって、いよいよ放送とインターネットの融合が起こり、関連する業界は大きく変革する。
インターネット第2フェーズで起こっているもう一つの大きな流れがある。インターネット時代になれば、誰でも、個人が情報発信できると、これも10年前のインターネットの始まりから私を含め、多くの人たちが言っていたが、これもいよいよ本格化している。インターネットは、単にEメールのやりとりと、ウェブサーフィンする時代から、個人が自分でものを作り出し、それを公開し、知り合いと共有し、また、複数の人で共同で何か作るなど、能動的な活動に使われるようになってきた。昨年あたりから世間で注目をあびているブログ、そして、友達の輪を広げたようなシステムのソーシャル・ネットワーキング(E-ソサエティーなどとも言われる)の広がりは、まさしくユーザー個人個人が情報発信者となっている。それも一部のテクニカルな専門家だけではなく、全く一般のユーザーがである。我が家で考えてみても、20代の娘、10代の息子、ともにブログやソーシャル・ネットワーキングで活動している。
その結果、「電車男」のようなものがベストセラーになったり、個人のインターネット・ラジオ局(またはポッドキャスト)が急増したり、ブログの女王みたいに言われる人まで出てくることになった。このようなことが出来るようになった背景には、インターネット・ユーザーの広がり、ユーザーのインターネットへの慣れに加え、素人でも簡単に使えるツールの整備、また、ブログが公開できる場を提供したり、ソーシャル・ネットワーキングをうまくコーディネートする人たちの存在が大きい。
インターネットをうまく使えば、埋もれている才能ある人達が、お金をかけてマスコミで宣伝したりしなくても活躍し、場合によっては有名になって大金を手にすることも、夢物語ではなくなってきた。また、これまでは、世の中の情報はマスコミ経由でしか受け取れなかったものが、その現場に居合わせた人からの情報など、いろいろな角度からの情報が得られるようになり、マスコミの立場も、以前とは大きく変わってきている。当然、マスコミを使った広告のやり方も変わってくるわけだ。
このような大きな社会的な変化をもってインターネット第2フェーズと言う場合が多いが、もっと狭義に、インターネットの新しい技術を中心に言う場合もある。米国では、よくWeb 2.0(狭義)と言われる。ただ、この言葉も狭義だけでなく、最初に述べたように、インターネット第2フェーズのような、社会的な変化全体を含めて言う場合(広義のWeb 2.0)もあるので、注意を要する。
狭義のWeb 2.0として上げられる技術としては、既に上にあげたような社会変革を実現する技術、たとえばインターネット・ラジオで番組をダウンロードできるものを作るポッドキャスト技術、ブログを簡単に作るための構築技術などのほか、複数の技術をうまく組み合わせて使うためのAJAX技術(Asynchronous JavaScript plus XML)などがある。AJAXを使うと、例えば、サーチ結果と地図を組み合わせたり、その地図をズームしたりということが簡単に出来る。それも毎回ネットワークに情報を取りにいかずに出来るので、応答時間も極めて速い。また、ウィジェット(Widget)と呼ばれるミニアプリケーションによって、ウェブサイトを転々とせずにいろいろな情報が得られる技術も広がっており、ユーザーへの使い易さとともに、サイト側としても、他のサイトに行かれずに、自分のコントロール下で、いろいろなことが出来るようになった。社会全体がインターネット第2フェーズに入ってくるには、Web 2.0(狭義)の新しい技術の存在も欠かせない。
インターネットは狭義のWeb 2.0を含め、第2フェーズに本格的に入り込んできた。いよいよ既存ビジネスが新しいビジネスにとって代わられる時期にさしかかってきたと考えるべきだ。この変革は、今年1年で一気に起こるというものでは必ずしもないが、この大きな変革を過ぎたとき、会社としてその業界でどのようなポジションがとれるか、それを決めるための大きな正念場に、今まさに来ている。現在、それぞれの業界で大手と言われている会社は、いかに新しい世の中に適応し、脱皮していくか。その中では、いままで是とされていたものを否定し、否とされていたものを肯定して前に進む必要がある。一方、新しい企業にとっては、これまで大手企業に占有されていた市場を大きく取り崩し、新しい市場のリーダーとなる絶好の機会である。どこの会社が生き残り、それぞれの業界で大きなポジションを取るか、今年はその戦略と実行力が問われる大きな年になる。
(01/01/2006)
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