日本文化交流会実施報告

8/28ボランティア報告会より

チェルノブイリ子ども基金代表 広河隆一(報告・質疑応答)

祈る人々―「チェルノブイリの祈り」によせて 松本妙子


チェルノブイリ子ども基金代表 広河隆一

◆「特別保養」について

 私たちの救援募金には限りがあるので、あらゆる要請に応えることはできません。各地の汚染地域の地区中央病院・施設避難民の団体など、かなり多方面に薬を配ったり、病気の治療のためのお金を送ったりしていましたが、4年前から募金を一番救援を必要とすることに集中させたいと、甲状腺手術後の子どもたちに焦点を当てました。一番必要なのは手術した子どもたちの再発を防ぐために必要な薬を与えるとか、保養によって抵抗力をつけることです。

 毎年夏に、基金で運営を支援しているサナトリウム2つ(ウクライナ・ベラルーシ)に特別の企画として甲状腺手術後(現地ではガンであることを知らない子どもが多いのでこの呼び方をしている。また良性腫瘍でも手術した子どももいる。)の子どもたちを集めて保養をおこなっています。今年は親たちの要望によりウクライナ・ベラルーシ2ヵ所に分かれて計250人の保養となりました。そこに日本のボランティアを派遣し、日本週間を催し、子どもたちは病気のことを忘れて楽しみました。

◆これからの救援活動

 今年の日本週間はウクライナとベラルーシに分散し、公募もせず、例年に比べ小規模ではありましたが、子どもたちはとても喜んでいました。成功したと思っています。

 これからの一番の問題は、事故から14年近く過ぎ、事故の当時は子どもでも今は子どもという年齢層にない人が増えてくるということです。今回の特別保養のウクライナの参加者の平均年齢は16歳でした。被害は少なくなっていないのに、救援の必要な子どもの年齢が上がってきているのです。現地では18歳はもう大人です。だから一概に保養に招待する参加者の年齢をあげていくわけにはいきませんし、そういう参加者に今までと同じような形の日本人ボランティア週間が本当にいいのか、という問題もあります。

◆今年から来年に決まっている援助

 外務省のNGO助成を受けてウクライナの「南」にレンガ造りで地下1階地上2階の「子どもの家」の建設が決まりました。これで現地で子どもたちの保養、遊びやリハビリはやりやすくなります。音楽室や遊戯室、コンピュータ室などを設けます。日本がやるとドイツは競争心をあおられるのか、50人収容の子どもの宿泊棟を建設して贈るといっています。

 同じく外務省の支援委員会の助成を受け、ベラルーシ「希望21」へ医療機器を送り医療棟の充実を図ります。

◆質疑応答より

Kさん:ベラルーシの子どもの里親をしています。個人的に招待したいのですが。

広河:里親制度とは、個人的に現地の困窮家庭の子どもたちに対して毎月50$を支援する運動です。現在約60人の里親の方が参加しています。子どもは病気だけでなく、生活が苦しく、例えば親がアル中のため14歳なのに小学校1年のクラスに入っている子どももいます。そのような場合、支援金を親に渡すのでなく、信頼できる人が直接子どもに渡したり、必要なものを購入したりします。

 手術をした子どもを日本に呼ぶ、また訪ねる場合ですが、何かあったときの責任の所在はどこかという問題や、一人だけ呼ぶのは子どもの心理面に与える不安があります。言葉の問題もあるでしょう。救援団体から付添いが必要か、或いは家族的な付添いでいいのか。いざというとき対応できる医者はどうするのか。それらは個々に判断していくことになると思います。しかし来年には実施したいと思っていて、現地の救援団体と子ども基金の取り決めを検討したいと思っています。

Sさん:来年17歳になる「子ども」の話がありましたが、それはそれで保養とは別のかたちかもしれないが、支援は必要だと思う。思春期を迎えて子どもたちは新たな深刻な悩みを持っています。里親制度はお金だけでなく心理的な面でも安心感とか生きていく希望を与える事ができると思う。

広河:やがて事故後15周年になるということは、事故当時生まれた子どもが子どもではなくなる年を迎えるという事です。どうするか活動の色々な選択肢の切り替え時でもあります。あと2年間はこのやり方を続けていいと思います。しかし、募金を寄せて下さる方は「子どもを助ける」という意識でいらっしゃるのも確かです。例えば保養に関しては17歳の青少年まで広げて対象とし、それ以上の人には、「事故の当時子ども」だった人に対しては薬の支援とか緊急医療の支援は続けていくとか、切り離してやらなくてはいけないと思っています。

 私はいつまでも支援を続けられるものだとは思っていないし、そういう状況の変化に応じて出きる事も限られてきます。支援をどこに集中するのかもう一度考え直す必要があります。基本的には子ども基金がなくなっても支援が続いて行くやり方をやっていきたい。ドイツなどの考え方はマンツーマンで子どもたちとの個人的な接触を深めると、団体が消滅しても支援は続いていくというものです。私たちもある程度このやり方に変えていかなくてはと思っています。

 里親運動も広げていきたいのですが、ここでも年齢の問題があります。18歳の人の援助をお願いしますというのは難しいのではないでしょうか。少なくとも開始時は子どもである、あるいは17歳以下であるという事は必要だと思います。でも別の形も考えなくてはいけなくなるでしょう。その頃にはチェルノブイリは第2世代や、汚染地に住みつづけている子どもたちの健康の問題が中心といった形になるかもしれません。現在は私たちの救援の対象を甲状腺の病気という事にしているが、別の焦点の当て方が必要なのかもしれません。

Kさん:里親になっているが、手紙が来てもロシア語が分からないのですぐ対応できない。子ども基金でサポートしていただければありがたい。

広河:子ども基金はロシア語のできる方に救援関係、現地とのやりとりなど協力を得ていますが、ロシア語のできるボランティアの層は10周年の時の何分の一かになっているので、なかなかサポートできないのが実情です。

 例えば、こちらから書く手紙は英語で書いてもいいと思うのです。子どもの周りに英語のできる人はいるし、日本でロシア語が分かる人を探すより現地で英語の分かる人を探す方が遥かに楽だと思います。しかも子どもたちで英語が出きる子どももかなりいますから。


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