チェルノブイリ報告〜チェルノブイリの証言
ドロズド.V.主任医師のインタビューより (C)広河隆一 *センター内の手術後の子どもたちのためのリハビリ・センターの改修費、備品などを子ども基金が支援している。 ■最近、子どもの甲状腺ガンの減少に反して、青年の甲状腺ガンが増加しています。事故後に生まれた子どもたちへの影響が表れ始めています。今後30年間でベラルーシの甲状腺ガン発症例は10,000〜15,000になるだろうというベラルーシの科学者が予測しています。 ■1986年以降に生まれた子どもの甲状腺ガン発症例は、2000年までには6例でしたが、2000年に11例、2001年には13例と、その後増える傾向にあります。甲状腺ガンが、人口に比べて爆発的に増加しています。その理由として、2つ考えられています。1986年後に生まれ、事故直後の放射能を浴びたのではなく、日常の雨や生活環境による被曝。そして被曝した両親を持つ子どもたちへの遺伝的被曝です。科学的な根拠はあり ませんが、2000年、2001年にガンだとわかった25人の子どものほとんどは、汚染地に住む両親から生まれた子どもたちです。今後もスクリーニング、診断を続けていくこ とが重要です。1994年までは、小児甲状腺ガンの早期発見率が37%であったのに対し、1994年以降には50%に上がりました。これは、とても良い結果であると言えます。 ■しかし、事故当時の子どもたちは大人になり、結婚して子どもを産み始めたので、スクリーニングをしにくくなっています。妊娠中はスクリーニング診断ができないので、甲状腺に異常があったとしても早期発見できないかもしれません。 ■技術的援助ももちろん必要ですが、甲状腺の手術を受けた子どもに必要な医薬品の問題もあります。今、こういった子どもたちへ十分な治療ができておらず、保養プログラムも不足しています。 ■手術後の子どもたちはLテラキシンを服用していますが、このLテラキシンは心臓や肺などに負担をかけるとみられています。今のところ、一般に公表されたデータはありません。正確なデータが発表されれば、世界の治療方法問題全体を変えることになるかもしれません。Lテラキシン療法はきちんと管理されており、過去2年間の地元の医者の記録をもとに、子どもたちには6か月ごとの検診を実施しています。 (C)広河隆一 ■幼いときに手術を受けた若者たちは、今家族を持とうとしています。今のところ、5〜6歳で甲状腺手術を受け、Lテラキシンや放射性ヨード治療を受けた子どもたちの、 これだけ大量のデータは他にありません。これらの療法を受けた少女たちが大人になり、妊娠をしたときにどのようなことが起こりうるか,はっきりしたことはわかっていません。 ■一般的に放射性ヨード治療を受けた後2年間は、妊娠するのは好ましくないとされています。しかし、治療を受けてから2年もたたない少女が妊娠するようなケースは多々あります。放射性ヨード治療は女の子だけでなく、男の子にも影響があります。私たちができるのは、甲状腺ガンの手術を受けた子どもたちに教育を施すことだけです。なぜなら、家族を作ることに否定的になってほしくないからです。 ■手術後の人々に対する心のケア、心のリハビリが求められています。7月にリハビリセンターで絵のコンペティションをしました。このような心理学科療法には、日本の子ども基金の協力が必要です。コンピューター・グラフィックスや絵画は、子どもたちにとっても良い影響を与えています。5年前、ネガティブな絵を描いていた少女が、今はとてもポジティブな傾向の絵を描いたりしています。最近、リハビリセンターでは日本の子ども基金からの支援でコンピューター・グラフィックスなどを学ぶグループが多く作られています。国や州からの援助はありません。このようなリハビリセンターへの経済的支援が、ますます必要となっています。もっとも重要なことは、手術した子どもたちに直結した生活環境の向上と彼ら彼女らへの総合理解です。 *L-テラキシン(チロキシン)・・・甲状腺手術後の子どもたちのために必要な医薬品。甲状腺ホルモン剤。 (2002年8月ベラルーシ・放射線医療センター「アクサコブシナ」にて)
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