夏の特別保養−日本週間(前号よりつづき)


【マッサージ・護身術・書道・日本語教室など】
2002年8月・9月 佐々木真理


(右端が佐々木さん)

 「日本週間」で担当した授業は日本語、書道、マッサージ、護身術などでした。毎年参加している子どもたちとの再会や新しい出会いがありました。「子どもたち」と書きましたが、今回「南」には子ども基金が支援しているベラルーシの奨学生と里子のグループが招待されていました。21歳や23歳の大学生は「子ども」ではありません。私たちの準備した教室に興味を持ってくれるかどうか少し心配していましたが、自分たちの国やヨーロッパとは全く異なる日本文化への興味は、年齢に関わりはありませんでした。また後述する「運動会」も、どの年齢層にも大好評でした。

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 8月の「日本週間」終了後も私は「希望21」に残り、9月からの保養に来た新たな200人の子どもたちと約1カ月間を過ごしました。高濃度汚染地から学校単位でやって来た子どもたちで、今まで「日本週間」に参加したことはありません。午前中は学校と同じ内容の授業(数学、歴史、科学等)、午後は自分の好きな教室を選んで参加、というのが毎日のスケジュールです。午後はコンピュータ・グラフィック、陶芸、手芸、工芸、絵画、卓球、演劇、音楽などの教室があります。私は「日本週間」で行った4つに加え、浴衣着付け、盆踊り、折り紙の教室を開きました。初めて触れる日本の文化に大変興味を持ち、どの教室にも多くの子どもたちが参加しました。毎年顔を合わせているこの施設の職員たちとの信頼関係と協力があったからこそ、この期間の活動を成功させることができたと思います。

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 「日本語」の授業に参加した子どもたちは施設内で出会うと「コンニチハ!」「オハヨー!」と日本語であいさつをしてくるようになりました。「書道」の授業で自分の名前をカタカナで書くことを覚えた子どもたちの何人かが、それをマジックやペンで腕に書くようになり、その後の流行となりました。自分でうまく書けない子は「ここに書いて」と腕を差し出してきました。日本語と書道の授業でいくつかの漢字の意味を知り、また自分たちで書けるようにもなりました(面白いと思ったのは、書道を始める前に何人かの子たちが「さあ、絵を描こう!」と言っていたことです。漢字は字というより絵のように思えるようです)。授業では習わなかったことについてもいろいろと質問をしてきました。「“私はあなたが好きです”と日本語で書いて」と頼んできた男の子がいました。このことを書いた手紙はここに来て知り合った女の子に渡していたことがわかりました。その女の子が「これは何て書いてあるの?」と後で聞きに来たからです。その後二人が仲良く話をしている微笑ましい光景を目にしました。

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 「マッサージ」の授業では年齢の低い子どもたちも真剣に取り組んでいました。ある小さな女の子は、「うちに帰ったらお母さんとおばあさんにやってあげる」と言いました。護身術の授業では、誰にでもできて危険のない方法をいくつか紹介しました。男の子だけでなく女の子もたくさん参加しました。子どもたちは日本の武道に大変興味を持っています。「浴衣着付けと盆踊り」の教室も大好評でした。参加したのは女の子が大半でしたが、小さい男の子たちも何人かいました。あるグループの女の子たちは盆踊りのテープをダビングさせてほしいと言いました。保養が終わって自分たちの町に帰ったら、ここへ来ていない他の友達にも教えてあげて自分たちの学校で踊りたいのだそうです。  「折り紙」の授業に参加したのは、鶴を折るのも初めてという子どもが殆どでした。自分の作品ができあがったときはどの子もとても満足そうな様子でした。

 最終日には全員そろって日本の「運動会」を行いました。パン食い競争、借り物競争、二人三脚などの日本人にはお馴染みの競技、それから箸を使ったゲームや日本に関するクイズ大会、盆踊りも行いました。子どもたちにとってはどれも初めて体験するものでした。始める前はこれらの競技を子どもたちが楽しんでくれるかどうか少し心配していましたが予想以上の盛り上がりでした。どの競技もみんな積極的に参加し、応援や歓声が絶えませんでした。こんなに喜んでもらえたことは、企画した私たちとしても大変うれしいことでした。「日本週間」の期間中、通訳として働いてくれたウクライナ人のコースチャと保養施設の職員や付き添いの大人たちのおかげで私たちの活動は成功することができたと思います。彼らの協力と理解に心から感謝します。

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 「日本週間」では甲状腺手術後の子どもたちの保養期間中の約1週間を、日本人ボランティアは一緒に過ごします。「希望21」で子どもたちが保養所にやって来てから帰るまでの1カ月間を通して一緒に過ごしたのは、今回が初めての経験でした。そこでは何人かの子どもたちが確実に変化していく様子を見ることができました。来たばかりの頃はおどおどした様子でいじめられることも多かった男の子ジェーニャはあることをきっかけに自分に自信をもち、その後は友だちもたくさんできて明るく活発になっていきました。いつも表情が固く話しかけても決して笑顔を見せなかった女の子ナースチャは、保養の終わる頃に行われたゲームでは自分の方から「一緒にペアを組もうよ!」と寄ってきて大きな声で笑うようになっていました。ただ汚染されていない環境と食べ物で体を丈夫にするというだけではないのです。本当に心までこんなに元気になっていく様子を実際に目にして、この施設と保養の役割の大切さを改めて感じました。いろいろな楽しい催し物や授業に参加したり、友だちができたり、大人たちが自分たちを心配してくれているという安心感を得たり、そのような体験が子どもたちを元気づけたのだと思います。楽しい思い出と一緒に、自分への自信や他者への信頼感を得てそれぞれの家に帰るのです。子どもの頃のこのような体験は、大人になってからも苦しいことを克服するための原動力になると私は信じています。ここで体験したことの一部でも糧となり、彼らがこれから生きていく上での支えのひとつとなってくれたらよいと思います。私たちの活動が子どもたちの将来に少しでも役立てばうれしいです。

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 書道の授業で「幸福」という字を半紙からはみ出しそうなほど大きく書いた男の子がいました。書いた後で「これ何ていう意味だっけ?」と聞くので教えると、「わあ、大きな幸福だ!」とはじけるような笑顔を見せました。いつまでもこの笑顔を持ち続けてほしいと思いました。自分の努力では乗り切ることのできない病気や生活の苦しさなど、いろいろな困難に立ち向かっていかなければならないことが想像されます。ですから私は彼ら、彼女らの健康と幸福を祈るとともに、これからも自分のできることをしていきたいです。

♪:98年夏より毎年参加して下さっている佐々木さんですが、今回は2カ月近く滞在し、子どもたちのために教室を開催しました。「希望21」には200人の子どもたちが1カ月交代で年間のべ約2000人が滞在します。子ども基金は設立当初より協力・支援を続けています。

 

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