チェルノブイリ報告


事故後17年の人々の今

 チェルノブイリ事故が起きてからもう17年経ち、もう昔の事じゃないかと思われているようですが、私は事故の影響というのは終わっていないどころか、まさに新たに始まっていることさえあるとつくづく感じました。なぜなら、事故の時に子どもだった世代が今大きくなり結婚したり、子どもを産んだりという時期になっているので、次の世代にどういう影響が出るのかということは誰も分からないと思うのです。正式な統計などは出ていませんが、ユージャンカに、一般の若い夫婦が2才くらいの子どもを連れて来ていた時に、ごく当たり前のことのように、「今、ウクライナに健康な子どもは一人もいないよ」と言ったのです。それと同じような話はベラルーシでも聞きました。特別に聞き出したわけではなく、普通の会話の中で当たり前に話していたのです。それで思い出したのですが、ベラルーシのジャーナリストのスベトラーナ・アレクシェーヴィチさんの著書『チェルノブイリの祈り』で、“ベラルーシは国民全体が人体実験されている”という一節があります。本当にこれから先、どうなるのか分からないけれども、みんなはここで生きていかなければならない、というつらさを感じました。


ビデオを交えて報告する佐々木真理さん

 とても印象に残っていることがひとつあります。ナデジダに滞在中、私が作業をしている同じ部屋で職員の人がビデオの編集をしていました。その中にほんの少しだけチェルノブイリ事故直後の消火作業の実際の映像が出ていました。その時に彼女は部屋から出て行ったので、何か用事があるのかと思っていました。しばらくして戻って来て、「私はまだその映像をまともに見ることができない。ほら、鳥肌が立っているでしょう」と腕を見せたのです。彼女は普段から冷静で、感情をあらわにすることなどない人です。まさか今でもそんな風に思っているとは、とショックを受けました。もちろん私もその映像を平気な顔で見ていたわけではないのですが、そこで普通に作業をしていた自分と、そこにいられなかったその人との間の大きな差を感じました。ここに住む人たちの、被災した人たちの本当の苦しみや心のところを、私はまだまだ分かっていなかったのだと、その時つくづく思いました。

 

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