チェルノブイリ報告

報告:広河隆一


ゴメリ州小児臨床医学病院(ベラルーシ)
新生児神経科

 黄疸の新生児や早生児のために使っている保育器は、20年間も使っているためよく壊れる。医者たちで修理して使っている。使用できる保育器は1台しかない。病室にある未熟児のための保温ベッドも、もういつからあるのか忘れてしまうほど古い。この病院ではマッサージと運動療法により子どもたちの機能回復を図っている。しかし運動療法室には必要な器具類が備わっていない。マットやクッションなどは自分たちで手作りしたもの。小児用トランポリンネットに保温ベッド、1歳までの新生児のリハビリのための道具が非常に必要だ。さらにコンピュータが1台もないため、書類はすべて手書きである。

 未熟児や早生児のいろいろな病気が増えているのは、母親の健康状態と密接な関係がある。母親の免疫力が衰えており慢性病があるため、出産した子どもにも必ず問題がある。もちろんチェルノブイリの影響もある。チェルノブイリ事故当時子どもだった世代が、現在出産をしている。最近は遺伝病を抱えている子どもも増えている。大変弱い状態で生まれており、身体障害率が高い。心臓弁膜症、大脳、脊髄と大脳の欠陥が一番増えている。事故後増えた病気である甲状腺腫など甲状腺に異常がある母親から生まれた子どもの異常も増えている。新生児は、心臓や、発育の問題や神経システムも損傷を受けている。また、我々の病院で生まれた子どもを検査し、その結果母親に甲状腺異常が発見されることがよくある。

 世界からの援助の流れは弱くなり、その勢いも尽きてきている。人道支援は、世界中でチェルノブイリ事故が話題になっていた最初の数年が多かった。その多くは、医薬品や医療器具だった。その時の医療器具の多くは今も使用している。保育器も当時いただいた人道支援である。医薬品も支援してもらっているが、量は極めて少なくなっている。日本からは私たちの科への支援は今までなかった。チェルノブイリの影響は今後も続く。それは過去であり、現在であり、将来でもある。放射能のレベルは分からないが、現在生まれてくる子ども達に影響を与え、何らかの形で将来生まれてくる子どもたちにも影響を及ぼすことを確信している。母親を媒介としての障害はチェルノブイリの影響であると言えるだろう。


ゴメリ市出身。生後1カ月。生まれつきの脊髄異常ため生後10日目で手術を受けた。その異常もチェルノブイリ事件の影響かもしれない。このよう異常がある場合普通、足の運動機能が失われてしまうが、この子にはその機能が手術後残っているので運がよかったと言える。もちろん今後もこの子には適切なリハビリ治療が必要である。


ジロービン市出身。二卵性双生児。妊娠8ヶ月目で生まれた。1人(右)は水頭症、もう1人(左)は体の半分が残りの半分より小さい。出産後一人は2週間入院、もう一人は1ヶ月以上入院していた。毎月検診のためにこちらに来たり、ジロービンで治療したりしたが、今は再検診の必要があったため再入院している。



B・イリーナ

 1983年5月17日生まれ。2003年8月、娘クリスティーナを出産した。

 2002年に乳腺腫瘍の手術を受けた後、半年に一度は検査を受けなくてはならなかった。4カ月前(今年の6月)に再手術を受けた。前回とまったく同じ場所に腫瘍があった。局部麻酔による手術だったので意識はあった。手術をした医師は、腫瘍を触って深さが分かるらしい。腫瘍が深かったので、再び麻酔を打たれた。麻酔が効いたのは縫合されたときだけだ。検査の結果はよかったので、手術はとりあえず成功だったと思う。また再検査に行かなくてはならないのだが、忙しくて時間が作れない。

 私は体のあらゆるところが痛い。毎日頭痛がする。脊柱の湾曲もあると医師から言われた。頭痛や、腰や背中が最近痛くなってきたのはそのせいかもしれない。医師によると、すべての病気の原因は脊柱の異常のせいだとのこと。1週間のうち1日か2日体調がよければ幸いだ。今日は胃が痛いし、なぜか首も痛い。

 さらに、チロキシンの影響で心臓の働きも正常ではないのだそうだ。朝、元気で気分よく起きるというのは一体どんな感じだったのか、それを忘れたくらいだ。毎朝両手が麻痺している。飲んでいるチロキシンかカルシウム剤の影響なのか、掌と指に針に刺されているような感じなのだ。たくさん睡眠をとっていても、いつも眠い。ずっと寝ていたい。心臓の異常のせいなのかわからないが、体の左上半身が鈍く、針に刺されているような感じが毎朝している。娘の体には、私が飲んだチロキシンやホルモン剤などの薬の成分がたくさん入ってしまった。


(2005年10月訪問 文責 編集部)


●98年夏に岩手県奥羽支部の招待で保養のために来日したナターシャ・コンツェヴェンコ(ベラルーシ・ゴメリ市)が05年10月1日に結婚式を挙げました。白いウェディングドレスに輝くような笑顔。取材に訪れていた広河隆一とゴメリ訪問中の佐々木真理が式に出席しました。


●チェルノブイリ子ども基金の新しい三つ折パンフごらんになりましたでしょうか。その表紙に使われている3人の姉弟のことはたびたび「基金ニュース」でもとりあげてきました。長女ナージャは結婚し、家族と共に農業をしながら息子を育てています。10月に広河隆一が撮影しました。


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