先日、ベラルーシの人々に日本の雛祭りを紹介する機会がありました。雛祭りの話しをすると、ベラルーシの人々から決まって訊かれるのは、『それはこちらの』3月8日のようなものか?」という質問です。3月8日というのは、「国際婦人デー」という、ソ連時代からの祭日で、現在も旧ソ連各国で休日となっています。単に、「3月8日」と呼ばれることも多いこの記念日は、もともとはドイツの女性社会主義活動家が20世紀初頭に創設を提唱したもので、女性がその権利を求める日として、国連も定めた記念日です。「国際」と名はついていても、国際的な認知度は余り高くないこの国際婦人デーですが、旧ソ連では、女性がその権利を求めて闘う、という政治的な意味は現在では失われており、春が近いことを喜び、女性に感謝する日として誰もが認識するようになっています。母の日の感覚に近いでしょうか(旧ソ連のウズベキスタンでは、3月8日が「母の日」と改称されているようです)。この日になると、男性が女性に感謝し、花束やプレゼントを贈り、普段はしない家事を手伝ったり。個人的には、普段の扱いの裏返しのようで、素直に喜べないのですが、それでも3月8日は、旧ソ連で最も人気のある祝日の一つなのです。
男性のための祝日もあります。これもソ連時代からの記念日で、2月23日、ソ連軍(赤軍)の日です。ソ連崩壊後は「祖国防衛者の日」と名前を変えており、軍人の職業記念日としての性格も保っていますが、それ以外に、男性に感謝し、その勇気を称える日として定着しています。3月8日と違って休日ではありませんが、やはり女性が男性にプレゼントを贈ったり、集まってお祝いしたり、と、国民的な行事となっています。女性から男性に花をプレゼントすることもあります。少なくとも、日本の「父の日」よりは盛大と言ってよいでしょう。
ベラルーシには、休日となっている国民の祝日は日本より少ないものの(有給休暇が長いので、これ以上休みを増やすと働く時が無くなる)2月23日のような職業上の記念日が数多くあります。機械工業労働者の日、鉄道関係者の日、警察官の日、教師の日、などなど。当事者でなければ、これらの日が何月何日かを覚えている人はそう多くないようですが、近くなると報道などで分かることが多いのです。こうした日には祝賀行事が行われ、その様子がニュースになったり、さすがは労働者の国ソ連という印象です。
日本と大きく異なる点は、日本では祝日であっても、「おめでとう」と言うことは正月や誕生日以外普通ありませんが、こちらではお祝いの言葉が挨拶代わりになることです。女性の日であれば、祝う相手は女性となり、男性の日であれば逆ですが、正月同様、祝うためにわざわざ電話をかけたりするのですから、念が入っています(女性同士、男性同士でも「おめでとう」と言い合う)。先に挙げた職業関係の記念日でも、もし周囲に学校の先生がいれば「おめでとう」と声をかけるのが礼儀です。遠方に住んでいる自分の親が教師であれば、電話してお祝いの言葉を述べるのです。冒頭で述べた日本の雛祭りを紹介した際も、会場ではベラルーシ人から「おめでとう」と声をかけられましたし、革命記念日やメーデーなどの祝日でも「おめでとう」と言い合うのは同じです。慣れないと、違和感を覚え、またうっかりして忘れてしまうものです。
また、誕生日など自分の記念日である場合、その人に贈り物をするのは同じですが、当人が周囲に御馳走やケーキを振る舞う習慣は、日本とは異なっています。誕生日などはその日より前に祝ってはいけないのですが、新年のように、その日まで顔を合わせなければ「来るべき祝日おめでとう」と声を掛け合う、というのもあります。土地や時代によって、こうした習慣は変化するものですが、気をつけないと失礼になってしまうこともあり、知っておくに越したことはないと思います。
(花田朋子 ミンスク在住)
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