ミンスク便り


日本よりほぼ1か月遅れの3月1日、ベラルーシは暦の上での春を迎えました。まだ真冬のコートを脱ぐのは不安ですが、もうそろそろ身軽になりたい気分の今日この頃です。鳥がさえずる声の聞こえる日もあり、寒さのせいで億劫だった外出も楽になってきました。

冬の外出は大変です。特に小さな子供連れの場合、自分だけでも面倒な支度を2人分(あるいは3人分、4人分・・・)しなければなりません。自分で動かない赤ちゃんの場合、寒くないよう念を入れ、タイツの上に靴下を重ね、帽子や手袋、と、特に重装備になります。それでも外気浴は赤ちゃんにとってもお母さんにとっても大切なので、(日の短い冬の間は日が陰る前に)面倒がらずに散歩をしなければなりません。氷点下の寒さでも、ベビーカーを押して散歩するお母さんが見られるのは、以前にも述べた通りですが、これは「散歩のための散歩」であって、用事を済ませるための外出とは違います。この国では、母親が赤ちゃんを連れて外出をするのは、季節を問わず、あまり一般的ではないようです。

まず、ベビーカーはたいてい、寝かせて使用できるような大型のものが多く、気軽に外に出たり、通路の狭い店の中で使ったりするには向きません。集合住宅にはエレベーターのない所も少なくなく、赤ちゃんとベビーカーをお母さんが一人で運ぶのはかなりきつそうです。同じ理由から、地下鉄などの公共交通機関内でベビーカーを見かけることはほぼ皆無です。スペースが十分にある店や露店であれば、荷物をベビーカーに乗せ、近所で買い物をすることは可能でしょう。それ以外の場合、自家用車がなければ、家族の協力を仰ぐほかなさそうです。日本ではデパートの休憩室という強い味方があるほか、最近では子連れで楽しめる施設も各種整ってきているようですが、ベラルーシには大きなデパートに託児室はあるようですが、あまり気軽に利用できるものには見えません。

町の設備が整っていないために外出が難しいのは、お年寄りや身体の不自由な人も同様です。「バリアフリー」という言葉もベラルーシでは浸透していないようで、ほとんど聞かれません。車いすの人を外で見ることもほとんどなく、全く家の外に出ない人も少なくないと聞きます。車いすでの競技ダンスが比較的頻繁にメディアでとりあげられる一方、外に出られない大多数の人が社会生活に直接参加しにくくなっているのが現状です。

やむを得ず母親本人が出向かなければならず、子供を置いても行かれない場合もあるでしょう。上で述べたように、物理的には小さな子供連れの外出にハードルの高いベラルーシですが、決して子供連れに冷たい社会という訳ではありません。この国につきものの『行列』― 買い物時のレジ前や、各種受け付けの窓口など―では、小さな子供を連れていると、周囲の人が気付いて優先的に先に行かせてくれるのです。むしろ、待っているのがそう辛くない場合でも、「何を立っているのだ」と、非難めいた口調で先に行くことを促されるので、怒られたようで居心地が悪くなるほどです。

また、バスや地下鉄では、小さな子供連れやお年寄りなどを見ると、必ずと言っていいほど誰かが席を譲ります。後から来る人のために扉を押さえたり、お年寄りに手を貸したりすることは、自然な行為として一般の人々に身に付いており、日本人には若干お節介と感じられることもあるほどですが、見習うべき点はあると思います。日本では、小さな子供連れに対する周囲の視線が冷たいことも多く、少子化対策が叫ばれる一方で、子供を社会全体の財産とする考えが希薄なように思われます。

旧ソ連崩壊後、急激な人口減少の続いていたベラルーシでは、出産・育児手当増額などの措置が功を奏したのか、昨年は出生率が上昇に転じたそうです。この背景には、単なる経済的事情だけでなく、子供を大切にし、育てようとする社会があるのではないしょうか。    

(花田朋子 ミンスク在住)

 

次へ / ニュース目次へ