私は、人と接するとき、相手が不幸せだとか同情の気持ちを持たないようにしている。だから今回も保養に参加した子どもたちは甲状腺の手術をしていて、その言葉だけを聞くととてもかわいそうな子だと思ってしまいがちだが、この子たちも楽しいことをたくさん持っている。幸せな子どもたちだと自分に言い聞かせてのぞんだ。 しかし、そんな心配はいらなかった。出迎えてくれた子どもたちは、とてもハツラツと元気で楽しそうに笑っていた。私はその姿を見ると今までの不安も緊張もなくなってしまい、いつものように心の底から笑っていた。 毎日がとても楽しく過ぎて行き、私が担当した和風マスコットづくりと巾着づくりの教室も大成功でみんな大喜びしてくれた。その中でカーチャという女の子と仲良くなった。カーチャは少しおとなしい子でよく2人で「南」の野外舞台に座り、アルプス一万尺の手遊びをしたり、ナターシャ・グジーの歌の教室で習った「ふるさと」を一緒に歌ったりした。言葉は交わしていないのに一緒にいるだけで楽しくて、いっぱい笑いあい心が通じているのを感じた。笑うことはすばらしいと心から実感した。そして、子どもたちは毎日楽しく暮らしているんだと、手術の跡は小さいものだと思った。しかし、広河さんから「この子たちもここでは明るいけど、自分の街に帰ると暗くなる」と聞かされた。私はこの言葉にズキッときた。 私は子どもたちがここで楽しそうにしている姿しか知らず他の場所での様子を考えることが全然なかった。確かにここで仲間といるときと自分の街にいるときとでは、気持ちの持ち方も違い、自分の街では大きな孤独を抱えて生活しているだろう。だからこそ、この保養は意味がある。 ここで同じ手術を受けた友達を作り、楽しく笑い合うことは、きっと自分の街での生活の元気の源になるだろう。そして笑うことは気持ちがいいと思うきっかけに少しでもなれたのなら、私は大満足だ。また、来年もこの子たちと「南」で笑い合いたい。 「南」で過ごした日々は大切な宝物です。今回行くきっかけとなったのは、救援コンサートを行っていたナターシャ・クジーとの出会いでした。私は大阪と名古屋でナターシャのコンサートのピアノ伴奏をさせていただきました。そして今度はウクライナで一緒にコンサートをしたいという思いもあり、行くことを決めました。出発前は、期待よりも不安のほうが大きかったのですが、実際に行ってみると不安を感じる暇もないぐらい毎日様々なイベントがあり、本当に楽しくて笑ってばかりいました。 最初は言葉が通じないのでどのようにコミュニケーションをとればいいのか分からず、戸惑うこともありました。しかし、コミュニケーションをとるために必ずしも言葉は必要ないと気付きました。友達になるために特別な言葉は必要なく、ただ私が笑って相手が笑い返してくれるだけで友達になることができるのだと分かりました。 日本教室は本当に楽しく、教室を通して友達をつくることもできました。同じものを見て笑ったり、同じことをして時間を共有できることが何よりも嬉しいことでした。私は手作り楽器の教室と、「ふるさと」を歌う教室を担当しました。「ふるさと」はナターシャが日本でのコンサートでアンコールとして歌っていた曲で、この教室では彼女が歌の指導をしました。早朝の教室にもかかわらず毎朝20人以上の人が集まり、歌詞を覚えるぐらい熱心に練習をしていました。 日本フェスティバルでは再びナターシャと一緒にコンサートをすることができました。最も印象に残っているのは「太陽を消さないで」という曲を演奏したことです。私はいつもピアノを演奏する時、音楽を通じて何らかのメッセージを伝えようとしています。日本では、「一人でも多くの人にチェルノブイリのことを知ってもらいたい」という思いを込めてこの曲を演奏しました。「南」では今まで感じたことのない思いを抱きながら、この曲を演奏していました。この時はメッセージを伝えたいという思いは全くなく、ただこの曲を弾きながら、「太陽を消さないでほしい、ここにいるみんなの命の火を消さないでほしい」と強く感じていました。遠く離れていても同じ太陽の下でずっと笑っていたいと心から願っていました。 子ども達は毎晩ディスコ大会で踊ったり、イベントではいろんな芸を見せてくれるなど、想像していた以上に元気で楽しい人達でした。しかし表には出していませんでしたが、彼らはいつも病気と闘っています。私には彼らの気持ちを本当に理解することはできません。理解しようとしてもそれは同情にすぎなくなってしまうのではないかとも思います。私は、みんなが「南」での日々を通して、自分は一人ではないということを感じていればいいなぁと心から思います。「南」での様々な出会いが私を幸せにしてくれたように、友達という存在が少しでもみんなの心の中で輝いているといいなぁと感じます。私は「南」でたくさんの友達に出会えて本当によかったと思います。またいつかみんなに会いたいです。 |